~monologue de sommelier(ソムリエのひとり言)~ ワインの保存方法

ワインの醍醐味の一つに「熟成」があります。古いワイン、良作年のワイン、思い入れのある年のワインなどを長期保存して何年後かに楽しむ「熟成」は、ワイン好きの方々の楽しみの一つかと思います。

ワインは熟成すると香りは大きく開き、より複雑性を増し、何とも芳醇な要素を多く見せ始めます。味わいは力こそおとなしくはなりますが、全体的に高い位置でバランス良くまとまります。よりまろやかで芳醇になり、やはり複雑性を増し、渋味は角が取れ甘味にも似た旨味を感じさせるようになり、酸味はより一体化してエレガンスな要素を呈してきます。

しかし、どんなワインでも長く寝かせれば良いと言うものではなく、そのワインそれぞれの適正なピークがありますのでご注意を。そこで気になるのが、その熟成方法ですが、専門のワインセラーがあれば良いのですが、なかなか高価で簡単に購入出来るものでもありません…そんな中、ご家庭で熟成に向く場所がないかと言う質問を多く耳にしますので触れてみたいと思います。

ワインを熟成させる環境とは元々ヨーロッパの地下の洞窟等なので、その環境にた条件が必要になります。その条件とは「光の入らない場所」「湿度が高く一定している場所(70%前後以上)」「温度が一定している場所(12〜14°C)」「振動の等の少ない場所」などがそれに当たります。特に重要なのは、よく温度と振動が挙げられますが、経験上それよりも光(紫外線)を避ける事の方がよほど重要に感じます。温度はよほど暑い(35〜40°C以上)か低い(-5〜10°以下)かでなければ、直ぐにダメージはきませんが、日当たりのよい所に置いておけば半日から一日で劣化してしまう場合もあるからです。ただ瞬間的に暑くなるとワインが噴いてしまったり、冷えると酒石が出てしまったりして、その時点では酒質に大きなダメージはありませんが、その後の長期熟成に少なからずリスクが生じる事は事実です。「何度か」も大事ですが、極度な温度変化をさける事の方が重要かも知れません。

湿度が必要な理由は、適度な湿度はコルクに充分な潤いを与え、コルクの乾燥をふせぎ膨張させるため、コルクが瓶とよく密着して隙間から酸素が入り込む事を防ぎます。ボトルを寝かせて熟成させるのもボトルの内側からコルクを湿らせる狙いもあるのです。因みに古いワインに見られるコルクに着いている黒カビは、そのワインが充分な湿度のもとに熟成していた証拠で、むしろ良い状態だったと言えます。因みにそのカビは人体に害はありません。振動はさほど神経質になる必要はないようで、ある大学の研究結果では微妙な振動を与え続けたワインの方がむしろ早く熟成した、と言う結果も出ています。状態はゆっくり熟成させた物と変わらなかったそうです。

この事から、光(紫外線)が入らず、温度変化が少なく、適度な湿気のある所がワインの熟成に向いた場所と言えます。ご家庭でそれらを満たす場所と言えば、「流しの下」や「押し入れ」などが近い条件ではないかと思います。昔は土蔵や床下収納がある家庭が多かったのですが、これらの場所はさらに理想的です。冷蔵庫はよく言われますが、光が入る事、開閉による温度変化が激しい事、更には除湿により極度に乾燥している事を考えると長期保存には不向きと言えます。しかし短期の保存でしたら全く問題はございません。ご自身や子供やご家族のバースデーヴィンテージ、結婚記念年や何かの記念年など長期熟成させ、何かの節目にあけるワインの醍醐味は他では得難いものがありますね。

 

補足:ワインセラーを購入する時のポイント。絶対に今所有しているワインの本数に近い収納本数の物にはしない方が賢明です。何故なら、私の知る限りかなり高い確率でもう1台購入する事になるからです。今持っているワインの本数の最低でも1.5倍、出来れば2倍の収納本数の物を買われた方が、後々高くつく事は避けられると思います。セラーを買った安心感からか、どんどんワインを購入し、すぐに入りきらなくなる事が原因のようです。楽しい事には際限がありません(笑)