~monologue de sommelier(ソムリエのひとり言)~ ワインのラベルとエティケット

※このひとり言は2013年10月1日に東京の「ラベル新聞」に連載されていた同筆者のコラムになります。

寄稿「ワインラベルとetiquette」①

シニアソムリエ 石田通也

 

  「エティケットとはラベルとマナーの意」 ラベル新聞2013年10月1日号掲載

 猛暑から秋へと移り変わり、世界中の多くのワイン愛好家にうれしい季節がやってきた。そのラベル表記には、伝統に裏打ちされた厳格なルールがある一方で、最近はスタイリッシュでストーリー性のあるラベルデザインも求められているという。シニアソムリエの石田通也氏に、7回にわたりワインのいろはと世界のラベルについて寄稿いただく。

皆さんはワインのラベルが「etiquette(エティケット)」と呼ばれていることをご存知でしょうか。きっとワインを嗜む方やワインのラベルに携わる方々は、よくご存知のことと思います。われわれソムリエは当たり前のようにラベルの事を「エチケット(エティケット)」と呼びますが、何故そう呼ばれているかを知っている方は少ないと思います。初回は、この辺りからお話しさせていただきます。

 日本でエチケットと言うと、正式なマナーを順守することを指すように捉えられています。ラベルとはまったく関係ないように思えますが、実は、その語源は関連しているのです。
そもそも「ラベル」とは英語圏での呼び方で、ワインの一大産地、フランスやドイツでは、エティケットと呼ばれることが多いのです。昔、英語圏のイギリスではワインが醸造できなかったことも関係しているのでしょう。
 ワインラベルの起源は、約6000年前のシュメール人による「ロルジーゲル」(ロール封印)と呼ばれるものにさかのぼります。それは、主に石墨や大理石、るり石などから造られ、高さ2~3㌢、直径1~2㌢くらいのコルク栓に似た形をしたもの。表面には彫り物がされており、次のように作られていました。
まず、神に捧げるワインを瓶に詰めて注ぎ口を布で覆い、ひもで口元を縛った後に粘土で塗り固めます。その上に、先ほどのロール封印を転がし、刻み込まれた模様を残したのです。つまり、一度封印されると、その後何らかの形で開かれた際には、二度と同じように封をする事ができなかったのです。そのため、瓶に詰めた者が中味に対して全責任を取る習わしがあり、それが、厳格なワインラベルの由縁になったとされています。
 エティケットの語源についてみてみましょう。エティケットとは、元々土に突き刺した杭の事を指し、その杭には何かを記すための刻み込みや印が付けられていました。それが次第に、何かが表示された札(ラベル)そのものを意味するようになっていったようです。
 宮廷にも取り入れられるようになると、そこにおける人々の階級の順位を示す「札」や、宮廷内のセレモニーでの作法が事細かく書き記された「貼り紙」となり、最後には礼儀作法全般がエティケットと言う言葉で表現されるようになっていったのです。つまり、何かが表示された札や紙片が、礼儀作法と共通語源でエティケット(ラベル)と呼ばれるようになり、現代では、表示内容を保証し、礼儀作法の意味合いも持つ言葉になったのです。
 このことから、中身や礼儀に反する行為、例えば、ワインで言えばラベルに記載された内容と中味が違えば“エティケット違反”ということになるのです。
ちなみに欧州では、ワインは「INAO(国立原産地名称研究所)」(原産地統制名称など、フランス全土においてワインを含む食品の公的な品質保証を厳正に管理する国立機関)で監督され、さらに各国で制定されているワイン法もあり、エティケット違反は法律で厳しく罰せられます。ワイン法に関するラベルの表記義務に関しては、また次回触れていきたいと思います。
ここまで、エティケットがマナーとラベルの双方の意味を含むルーツがお分かりいただけましたでしょうか。日本でも「折り紙付き」とか「お墨付き」など似たニュアンスの言葉があります。要は、その人間を保証するものということなのです。エティケット(ラベル)違反は法律で罰せられますが、エチケット(マナー)違反は、罰せられることのないモラルになります。社会の外面的な決まりである法律と、内面的な決まりであるモラル…罰せられないからこそ、自らのエチケットには、偽りなく誇り高くいきたいものです。
「ラベル新聞」 2013年10月1日~2014年5月1日まで連載 

 シニアソムリエ 石田通也氏  1970年、長野県明科町(現安曇野市)生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校で料理を学んだのち、㈱プリンスホテルへ入社。各レストランに配属されサービスを学ぶ。「シニアソムリエ」「きき酒師」「ビアテイスター」などの資格を持ち、05年には、「第4回全日本最優秀ソムリエコンクール兼第12回世界最優秀ソムリエコンクール日本代表選考会」でベスト16に。現在は、長野県松本市深志のフレンチレストラン「Le SALON(ル・サロン)」オーナーとして活躍する傍ら、ホテル、レストランのイベントプロデュースなども手がける。11年に㈳日本ソムリエ協会技術委員・上信越支部地域委員、同年、長野県原産地呼称管理制度日本酒・焼酎官能委員に。

Le Salon

松本駅から徒歩10分の深志神社近くにあるフレンチレストラン。重厚なエントランスを入ると、ゆったりとくつろげる空間が広がる。オーナーソムリエの石田氏とワイン談義を交えながらリーズナブルなフランス料理が楽しめる。

住所:長野県松本市深志3-4-3 1F/営業時間:17時30分~23時/定休日:木曜日/予約・問い合わせ:TEL 0263-88-7447